2011年6月15日水曜日

夜の顔

 インタビューをしに1時間余りバスに揺られ、見知らぬ街へ出かけた。納得いく話が聞け、気をよくして帰りにショッピングモールに寄ったところ、「半期に一度のセール」の看板。それがいけなかった。必要以上に長居して、バス停に着いたら、乗ってきたバスの最終便は出発した直後だった。

時間は午後7時半。仕方なくバスを2度乗り換えて帰ることになったが、「まぁ、何とかなるだろう」と甘く見ていた。ロサンゼルス(LA)では、午後8時過ぎまで外は明るいのだ。

 午後7時50分。最初のバスはやってきた。日が傾き始めたものの、ほどなく最初のバス停に到着。バス停は広い通り沿いで若い女性も一緒に待っていたので、さほど心配もしていなかった。

午後8時20分。しかし、その女性のバスが来てしまい、私一人に。日はとっぷり暮れ、バス停には誰もいない。iPhoneで場所は確認できる。が、一体ここはどういう街なのか、私は知らない。この先のバス停はさらにどうなるのか。少し焦りが広がり始めた。

午後8時50分。2本目が到着。バスはハリウッドを通り抜ける。夜になるとネオンが瞬き、虚飾の街は一層きらびやかさを増す。しかし、そんな街の魅力など味わうゆとりもなく、やたらと長く感じられる帰路、早く次のバス停に着くことだけ祈っていた。

午後9時15分。ようやく2つ目のバス停まで帰ってきた。人のよさそうな青年も乗り換え、少し心強かったが、次のバスは待てど暮らせど来る気配なし。と、背後で異様な雰囲気を感じ、振り向いたら、アフリカ系ホームレスのおじさんが立っていた。目が合った瞬間、彼は後ろにある公衆電話に電話をかけるふりをする。それがまた、怪しさを増大させる。さらに、別のホームレスもやってきて、後ろで二人、何やら話し始めた。
 このバス停も広い通りに面し、数メートル先にタコスの屋台があって人はいる。周囲に明かりがないわけではない。しかし、一向に姿を見せぬバスに“心の支え”だった青年はしびれをきらし、走り去ってしまったではないか。
 足元にはタコス屋台のせいか、ゴキブリが10匹は優に這いまわっていた。黒光りの不気味さはLAでも同じで、そのゴキブリと格闘しながら、ホームレスと3人、バス停に立つ。バスよ来い来い早く来い。

午後9時40分。ようやく、3本目のバスが到着。乗客はアフリカ系の青年数人と独り言をつぶやくアフリカ系の初老女性のみ。乗り慣れたはずのバスは、こちらも昼間とは客層が全く違った。バスは、そんな時間に乗って来る人がいないのか、運転手が早く家に帰りたいのか、猛スピードで次々とバス停をスキップしながら、走り続けた。

午後9時50分。ようやく下宿近くのバス停に着いた。ここまで来れば、家はすぐそこだ。胸をなでおろして下車しようとした矢先、今まで一言も話さなかった運転手が一言「Are you OK?」と言って私の顔を覗き込んだ。「I’m OK」と答えたものの、この期に及んで、私の状況が全く“OK”でないことが身にしみて分かった。

 下宿まで走りに走った。

自宅近くの大通り。昼間の喧騒が嘘のようだ

2 件のコメント:

  1. 確かゴキブリもたいそう苦手でしたよね?
    無事で何よりですよ、いろんな意味で。

    バスの運転手さんの「Are you OK?」という言葉に、
    すべてが現れているね……。
    日本の感覚で過ごしてはいけないんだな。
    本当に気をつけてください。


    ちなみに、夜のハリウッドでは何が楽しめるのですか?
    基本的な質問ですみません。

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  2. そうです。無茶苦茶苦手です。しかもそのゴキたちが広い通りを横断しようとしたものの、車が来たんで、こっちに引き返してきたため、一人で逃げ回っていました。ホームレスのおじさんたち、笑っていただろうなぁ。
    昼間の健全?なハリウッドしか知らないので、調べておきます。

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